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高松高等裁判所 昭和56年(行コ)2号 判決 1982年2月26日

控訴人(原告) 堀川義起

被控訴人(被告) 岡本要

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一申立

(控訴人)

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は伊豫(以下、伊予と表記する。)地区ごみ処理施設管理組合に対し、金五〇〇〇万円及びこれに対する昭和五一年八月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行の宣言。

(被控訴人)

主文と同旨。

第二当事者双方の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の事実記載を引用する。

一  請求原因3(三)を左のとおり改める。

「仮に、被控訴人が本件請負契約を随意契約の方法により締結したことが違法でないとしても、右契約は、被控訴人が裁量権の範囲を逸脱し又は濫用して締結したものであり、違法である。すなわち

イ  従来、わが国の地方自治体が発注した一日処理能力四〇トン以下のごみ焼却施設七三事例について、その施工者が大手業者か中流業者であるかをみると、大手業者は日本鋼管のわずか一件(奥多摩町、六トン)だけであり、他の七二事例はすべて中流業者であり、この数字は右程度の処理能力のごみ焼却場の建設を大手業者でなく中流業者へ請負わせても、公衆衛生・環境保全・公害防止面で何ら問題がないことを物語るものといえる。

また、同じく一日処理能力四〇トンを有するごみ焼却場であつても、その構造様式が機械炉的な考えによる準機械炉であるか、バツチ炉的な考えによる準機械炉であるかにより、その建設工事費には一億ないし一億二〇〇〇万円という莫大な金額の差異があるので、当該団体の理事者としてはその機種選定を十分な調査結果にもとづき決すべき責務がある。

ロ  被控訴人が伊予地区ごみ処理施設管理組合(以下、組合という。)の長である管理者として、株式会社タクマ(以下、タクマという。)との間に本件ごみ処理施設建設工事請負契約(以下、本件契約ともいう。)を締結するまでに次の経緯があつた。

(1) 組合理事者らは、昭和五〇年六月四日、六日の両日、高松ほか四地方自治体の現に操業中のごみ焼却場を視察見学したが、そのうちの多くの焼却場は中流業者が建設したものであり、右視察結果によつても周辺の環境及び公衆衛生等に及ぼす被害が認められなかつた。

そこで組合理事会は同年六月一八日、工事見積書を徴する業者を六社とし、うち三社を大手業者から、他の三社を中流業者から選び出すことと決定し、これにもとづき、同月二一日、諮問委員会で、大手業者三社として、丸紅株式会社(以下、丸紅という。)、タクマ、川崎重工業株式会社(以下、川崎重工という。)を、中流業者三社として、大紀産業株式会社(以下、大紀という。)、三和動熱工業株式会社(以下、三和という。)、太陽築炉工業株式会社(以下、太陽という。)を選出した(以下、大手業者を大手メーカー、中流業者を中堅メーカーともいう。)。

同年九月一三日までに、右六業者から組合へ、本件ごみ焼却施設の工事金額見積書・設計仕様書等が提出された。右各見積書で、その施設工事金額を、タクマは四億八九五〇万円、大紀は四億三七〇〇万円、三和は四億六五〇〇万円、太陽は三億六八〇〇万円、丸紅は五億三八五〇万円、川崎重工は五億二六四〇万円とそれぞれ見積つた。

(2) 右六業者提出の設計仕様書の検討(組合が業者へ提示した仕様書通りになつているか否かの検討)を委託された二見壽之(以下、二見という。)は、その検査結果を組合に報告したが、右大手メーカーと中堅メーカーの各仕様の優劣には言及せず、施設の型式決定にあたつては、準機械炉であつても、機械炉的な考えによるものとバツチ炉的な考えによるものとでは工事金額にも差異があるので、いずれの型式を選ぶかをまず検討したうえ決定するとよい旨を勧告したにとどまるので、二見の右検査結果報告だけでは、六業者提出の仕様書中、いずれが最も効率的で低価格であり、かつ周辺の環境や公衆等に及ぼす被害をできるだけ低く抑える型式であるかを適正に選定できない筈であり、被控訴人としては財団法人日本環境衛生センターへその検討を委託するとともに、他の地方公共団体で現に操業中の各型式のごみ焼却施設について公衆衛生・環境衛生に対する公害等、現実の被害発生の有無をも調査したうえで、これを決すべき責務があつた。

ハ  しかるに被控訴人は右の調査を行うことなく、二見から前記検査結果報告を受けてより僅か九日後にタクマと本件契約を締結したのは、当初からタクマと工事請負契約を締結することを予定し、それを実現する便宜の手段として随意契約によつたものであることを裏付けるもので、被控訴人の処置は組合管理者としての裁量権の違法行使である。」 二 請求原因4を左のとおり改める。

「被控訴人は本件契約の締結が前記の如く違法であることを知りながら敢えてこれを行つたものであり、仮に違法であることを知らなかつたとしても知らないことにつき重大な過失があり、少なくとも軽過失があつたので、右契約によつて組合が被つた損害を賠償すべき義務がある。

仮に、被控訴人の本件契約締結が不法行為に該らないとしても、被控訴人は組合管理者として、本件ごみ焼却施設の型式を選定するにつき、大手メーカーの準機械炉方式と中堅メーカーの機械化バツチ方式のどちらを採用するかによつて、その工事金額に大差があり、機械化バツチ方式の方が遥かに低廉であつたから、中堅メーカーが施工し現に操業中のごみ焼却場につき環境汚染等の有無、程度を調査確認したうえで、その採用する型式を決すべき善管注意義務があるのに、被控訴人が右調査確認をしないまま、漫然と大手メーカーの準機械炉を採用し、工事金額が中堅メーカーの見積額よりも九二〇〇万円も高額なタクマと本件契約を締結したのは、右善管注意義務違反であるから、それによつて組合が被つた損害を賠償すべき義務がある。」

三  請求原因に対する認否2(二)(原判決五枚目裏四行目から同六枚目裏四行目まで)を左のとおり改める。

「請求原因3(二)中、本件契約が地方自治法施行令第一六七条の二で定める場合のいずれにも該当しないとの主張を争い、その余を認める。

本件契約の締結は地方自治法施行令第一六七条の二第一項二号の『その性質又は目的が競争入札に適しないものとするとき。』及び同条項四号の『競争入札に付することが不利と認められるとき。』に各該当するものである。すなわち本件の如き一日平均廃棄物四〇トンの処理能力を有するごみ焼却炉は「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」及びこれに伴う取扱要綱・通達・通知等の諸規定に従つて設置されなければならず、右法規により、連続燃焼式焼却炉については、ごみの送り、燃焼、灰出しの各過程をそれぞれ完全に機械化して、公害防止機器と合体させ、完全かつ高度な性能を有するものであることが要求されているし、それと異なる型式のバツチ燃焼式焼却炉についても、部分的に機械化されているが、大幅な技術を必要とする焼却炉の製作が要求されている。そのため各焼却炉メーカーは右法規が定める諸条件を完全に充足する諸技術を独自に開発し、その装置の中枢部分は企業秘密となり、他のメーカーには真似ができないものとなつており、その結果、各メーカーの焼却炉にはその性能に顕著な差異があり、装置やその取扱操作にも非常な相違点が現出している。このように本件契約の対象であるごみ処理施設の建設工事は通常の土木建築工事とは異なる特殊の専門的知識と技術を要するものである。加えて、組合は一定の予算の範囲内で、公衆衛生・環境衛生等へ及ぼす公害防止等にも十分配慮して、住民の福祉にそう施設を建設すべき責務があるので、その目的を達成するためには競争入札では不可能であり、随意契約の方法で適切な業者を選定する必要性があつたから、本件契約の締結は地方自治法施行令第一六七条の二第一項二号所定の場合に該当する。また本件ごみ焼却炉建設工事は前記の如く高度に専門的な知識・技術を要し、一般的な技術によつては検査が困難であり、施工者が良心的に工事を行わなければ、その建設目的を達成できないところ、その施工者を競争入札で選定するにおいては、所要の技術を欠く者や不信用・不誠実な者が競争入札に参加して落札する可能性があり、組合が被害を受けるおそれがあるので、本件契約は前記政令第一六七条の二第一項四号所定の場合にも該当する。」

第三証拠関係<省略>

理由

一  控訴人の当審における主張をみると「控訴人は、被控訴人が競争入札によらず随意契約によつて組合とタクマとの間に本件ごみ焼却処理施設建設請負契約を締結させたのは違法であるから、地方自治法第二四二条の二第一項四号により組合に代つて被控訴人に対し損害賠償を求める。この場合は、被控訴人に地方自治法第二四三条の二にいう故意又は重大な過失があることを要しない。」というのであるから、控訴人が原審第二一回口頭弁論期日においてなした「控訴人は地方自治法第二四三条の二に基づく損害賠償を組合に代位して請求する。」という主張は、右の限度で変更されたものと考えて判断を進める。

二  地方自治法第二四三条の二の規定は、地方公共団体の出納や予算執行に当る職員等が当該団体の現金については故意又は過失により、その他の財産については故意又は重大な過失により、これを亡失させたり損傷を与えた場合の賠償責任を定めたものであり、広い意味に解釈すると、同条の職員に市長などの理事者を含める余地がないとはいえないとしても、一方地方自治法第二四二条の二第一項四号は、普通地方公共団体の住民は普通地方公共団体に代位して当該職員に対する損害賠償の請求ができると規定し、この場合の職員に理事者が含まれることは当然であり、同条が受けた前条の第二四二条は理事者が違法若しくは不当な公金の支出をなしたと認めるときはその補填を求める必要な措置を講ずべきことや損害賠償を請求できると規定し、その損害賠償の場合は地方公共団体が当該職員に損害賠償を請求できる場合でなければならないので、同法第二四二条の二第一項四号による損害賠償の請求は当該職員の行為が違法であり、かつ故意又は過失すなわち責に帰すべき事由がある場合でなければならないが、その過失は重過失であることを要しないものと解するのを相当とする。

三  請求原因12の事実及び請求原因6中、控訴人が昭和五一年五月一二日付で、被控訴人がタクマと本件契約を締結したことにつき、組合の監査委員に対して監査請求したところ、その請求を同年七月九日付で棄却されたことは当事者間に争いがない。

次に、請求原因3(一)中、組合の議会が昭和五〇年五月二〇日、一日につき四〇トンのごみ処理能力を有する機械化バツチ式焼却炉の建設計画を議決したこと、被控訴人がタクマと締結した本件契約において、その建設するごみ焼却施設の型式が準機械炉であるとされていることは当事者間に争いがなく、当裁判所は原審で提出された証拠に当審で追加された証拠を総合検討した結果、被控訴人が組合の管理者としてタクマと成約した本件ごみ焼却炉の型式は組合議会が建設計画を承認した型式に含まれ議会の議決に反するものでないと判断するもので、その理由は原判決の理由二2中、一〇枚目表四行目の「成立に」以下、一〇枚目裏一一行目までと同じであるから、それを引用する。したがつて控訴人の請求原因3(一)の主張は理由がない。

四  次に、被控訴人が本件ごみ焼却施設建設請負契約を締結したことが、組合に準用される地方自治法施行令第一六七条の二第一項二号にいう「その性質又は目的が競争入札に適しないものとするとき。」あるいは、同条項四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき。」に該るか否か及びその契約締結が裁量権行使の誤りないし濫用であるか否かにつき検討する。

(一)  地方自治法第二三四条は、地方公共団体が売買・貸借・請負その他の契約を締結するにあたつては一般競争入札の方法によることを原則とし、指名競争入札や随意契約又はせり売りの方法は政令で定める場合に該当するときに限ると規定し、右の政令である地方自治法施行令第一六七条の二第一項がその随意契約によることができる場合を列挙している点からみると、右の列挙は限定列挙であると解されるから、合理的理由なくしてこれを拡張解釈することはできない。しかし右施行令第一六七条の二第一項二号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものとするとき」とか、四号の「競争入札に付することが不利と認められるとき」という文言は抽象的であるから、それを具体的場合に適用するにあたつては、ある程度、当該地方公共団体(本件では組合)の理事者の裁量が入ることを免れず、本件の如き場合において、理事者が多数の業者中の特定の相手と契約することを内定し、その内定に副つた既成事実を作り上げて事を決するようなことは許されないが、要はそれが理事者の恣意によるものでなく、当該地方公共団体を構成する住民全体の利益福祉に役立ち、理事者として適正な判断によつたものであるかどうかによつて決めるべきである。

(二)  成立に争いがない乙第一、第四号証、第一三ないし第一八号証の各一、二、第二一、第二二、第二五、第二六、第二九号証、第三〇号証の一、原本の存在・成立とも争いがない乙第三三ないし第三五号証の各一、二、原審証人二見壽之、同重藤義雄の各証言により成立が認められる乙第一二号証、原審証人石田兼吉、同重藤義雄の各証言、原審における被控訴本人尋問の結果により成立が認められる乙第二、第一九号証、原審証人重藤義雄の証言により成立が認められる乙第二七号証、形式及び趣旨によつて公務員が作成したものと認められるので、その各成立を認め得る乙第二三号証、第二四号証の一、伊予地区ごみ処理施設管理組合長作成部分は右乙第二四号証の一により、その余の部分は弁論の全趣旨により各成立が認められる乙第二四号証の二、原審における被控訴本人尋問の結果により組合の職員が執務参考資料として所持している文書と認められる乙第三〇号の二、原審証人石田兼吉、同二見壽之、同重藤義雄の各証言、原審における被控訴本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  組合(昭和四五年五月設立)は従来、伊予市三秋地区と鳥の木地区にそれぞれごみ焼却施設を有した。そのうち三秋焼却炉は昭和四六年度に完成した機械化バツチ燃焼式炉で、ごみ焼却能力は一日(八時間)三〇トンであり、鳥の木焼却炉は昭和四〇年に建設されたバツチ炉一基で、その処置能力は一日一五トンであるが、鳥の木焼却炉は昭和四九年一一月破損して使用に堪えなくなり、同年末に廃止された。また昭和四六年六月以降、組合においてごみを収集する区域がその構成三市町の住民全部を対象とすることとなり、人口数とごみ量の増加傾向及びごみ質の悪化(ごみのカロリー水分含有量の増大)により、組合議会等でもごみ処理施設の増設が検討されていた。

2  国庫補助の対象となるごみ焼却処理施設の中心部であるごみ焼却炉の型式は昭和五〇年三月ころから五二年三月ころまで、厚生省当局の知事あて書簡で、連続燃焼式焼却炉、機械化バツチ燃焼式焼却炉、バツチ燃焼式焼却炉の三型式に大別されていた。連続燃焼型とバツチ燃焼型との主要な差異は、前者がごみを連続して二四時間(一昼夜)以上、燃焼処理できる装置である(燃焼によつて生じた灰を自動的に炉外へ除去できるので、灰除去のため炉の火を消す必要がない。)のに対し、バツチ型はごみを八時間程度燃焼させると、それによつて生じた灰を除去するため火を消さなければならない点にある。また焼却炉以外の諸装置、例えばごみを取入口から燃焼炉へ搬入する装置、灰の除去装置、汚水処理装置等についての両者の差異は、前者は全部機械によつて作業が行われるのに対し、後者は主として人力によつて作業を行うものとされる。機械化バツチ燃焼型は右連続燃焼型とバツチ燃焼型とのいわば中間型であり、その炉の連続燃焼時間が一六時間ないしそれ以上に長いものである反面、前記ごみ搬入等の装置の一部ないし大半が機械化されているものをいうとされている。

3  被控訴人は昭和五〇年二月に組合管理者となり、ごみ焼却処理施設増設についての組合の方針にしたがい、組合の技師重藤義雄(以下、重藤という。)らに、その増設整備計画を立案するよう指示した。

重藤は財団法人日本環境衛生センター(厚生省の外郭団体で、環境衛生・大気汚染等の調査研究及びごみ処理施設等の技術者の養成等を業務としている。以下、日本環境衛生センターという。)の廃棄物二課長である二見壽之(以下、二見という。)の指導を受け、伊予市役所生活環境課の課長や主事等の補助を受け、前記三秋ごみ焼却施設の西側に、機械化バツチ焼却式焼却炉二基を主体とするごみ焼却処理施設(一日平均ごみ処理能力四〇トン。以下、本件ごみ処理施設ともいう。)を昭和五〇年、五一年度の二年間に建設すること、その建設事業費合計試算額は五億八〇〇〇余万円であるとの計画書を作成し、同五〇年五月初旬ころ被控訴人へ上申した。

組合は、右建設事業費中、その事業の一部を占める国庫補助対象事業費の四分の一を国庫補助金で、その建設費の大半(四億一〇〇〇余万円)を起債金で、一部を愛媛県の補助金で賄い、その余を組合の一般財源から支出する計画であつたので、右補助金の下付申請及び起債認可申請の先行手続として、被控訴人は同年五月七日付で愛媛県当局あてに、前記増設事業計画を骨子とするごみ処理施設整備計画書(乙第二号証)を提出した。

同年五月二〇日、組合議会は被控訴人から提案された右同計画案を討議し(その際、前記生活環境課長が計画案の内容につき口頭でも説明した。)、その計画を承認した。

4  同年六月上旬ころまでに被控訴人、組合の副組合長(二名)及び石田兼吉嘱託(事務長―伊予市役所から出向)、組合を構成する双海・松前両町の町長及び各環境衛生業務担当課の課長(それらを便宜、組合理事者という。)が高松・川之江・今治・東予等の市や菊間町など現に地方公共団体が操業中のごみ焼却処理施設を視察した。そのうち被控訴人が視察したのは八施設であつたが、多くが比較的ごみ処理量が多い施設(一日平均のごみ処理量が三〇ないし四〇トン以上の施設)であつたところ、それらのごみ処理量が大きな施設の建設工事施行者の大半が大手メーカーであり、そのうちではタクマが施工した施設が多かつた。

右視察後の同年六月一八日ころ、被控訴人は組合理事者と協議のうえ、本件ごみ処理施設工事を請負わせる業者を選定するため、大手メーカー及び中堅メーカーに大別して、組合へ送付されていた企業名簿等で、その実績等が分かる二十余りのメーカー中から三社ずつ控訴人主張の六業者を指定し、六業者から工事金額見積書と見積仕様書を徴することを決め、重藤に右見積仕様書の基準となる統一仕様書の作成を命じた。

重藤は二見から数回にわたり助言指導を受けて、本件ごみ処理施設の統一仕様書を作成し、同年七月下旬ころ被控訴人へ進達した。

同年八月二二日ころ組合に対し、本件ごみ処理施設建設費に対する国庫補助金下付決定の内示が愛媛県から伝達された。

5  組合は同年九月三日、六業者へ前記統一仕様書を渡して事業内容を説明し、それに適合した各自の見積仕様書及び工事金額見積書を作成して組合へ提出するよう申し入れた。

同年九月一三日、六業者からその仕様書及び工費額見積書が提出された。

組合は二見に右六業者から提出された各仕様書の内容を技術面から検査するよう委託し、二見は重藤ほか一名に補助させて同年九月一三日から一五日にわたり、それらを検査し、同月一五日、その結果を書面で組合へ提出するとともに、同日、被控訴人はじめ組合理事者、議会議員、諮問委員らに口頭でも説明した。その検査結果報告によれば、中堅メーカー三社の仕様内容に対する劣点として、洗煙過程で塩酸様の汚水が生ずること、及び燃焼炉のロストル構造においてビツチ(間隔)が三〇ミリ以上であるため、ごみが燃焼炉内で燃焼されても、未だ完全焼却しないままの幾分かのものが灰とともに炉外へ落ち出るので、それだけ焼却能力が劣るし、さらに右未燃物が出ることにより、炉からの排水がより汚濁するのに比較して、大手メーカー三社の仕様内容には焼却能力及び公害問題で右のような難点がなく、また右三社各自の仕様内容にはさしたる優劣がないこと、但し、大手メーカーの仕様装置の価格は中堅メーカーのそれより割高なので、技術的な優劣と経費面予算面での制約を勘案して、その型式ないし発注する業者を選ぶべきであるというものであつた。

6  被控訴人は同年九月一八日に理事会で、また同月二四日に組合諮問委員会(各構成市町で任命した二名ずつの委員で構成)に対し、その型式選考につき討議させたところ、両会とも大手メーカー三社のみを選考の対象とすべきが相当であるとの意見で纏まり、さらに諮問委員会は大手三社中、その工事見積金額が最低の者に発注すべきである旨を答申した。

そこで被控訴人は右諮問委員会の席上で、それまで伊予市役所収入役管理の金庫中に保管させていた六業者の工費見積書を、諮問委員ら立会のもとに初めて開封したところ、その各業者の見積金額は控訴人主張のとおりであり、大手三社中、タクマの見積金額が最低であつた(各社の見積金額につき当事者間に争いがない。)。

被控訴人はタクマのごみ焼却施設業界での経歴、その既設施設の数や操業実積をも考慮に入れたうえ、タクマに本件ごみ処理施設建設工事を注文することに決し、組合の議員、諮問委員、理事が出席した全員協議会で了承を受けた。

7  本件契約締結後の同年一〇月四日、組合議会は右契約締結を承認した。

以上のとおり認められる。原審における控訴本人尋問の結果中、被控訴人ら組合の理事者は、六業者が差入れた工費見積書を開封するにあたり、立会人らに対して「大手メーカーの見積額が中堅メーカーのそれより一億円以内の差額ならば大手メーカーに発注することとし、そうでなく右の差が一億円以上ならばその中堅メーカーも発注すべき候補に入れて選考する。」と公言したうえ開封したところ、一億円以上の差があつたので、見積額が最低の太陽に建設工事を発注すべきものであるのに、理事者が前言を翻えし、別室で立会人らと密談した後、本件契約を締結することになつた旨、組合の土居清隆議員から聞いたと供述しているところは、土居清隆からの伝聞であるから多くの信を措き難いのみでなく、前記乙第二二号証、原審証人石田兼吉の証言、原審における被控訴本人尋問の結果と比照して、右供述は到底採用できない。他に以上の認定を覆えし、被控訴人において予めタクマを契約の相手に内定し、その内定を隠して、その契約締結を合理化するための既成事実を作るなどして、事を決したのではないかと疑われる証拠はない。

(三)  右の認定事実によると、被控訴人が決裁した本件ごみ処理施設建設請負契約は随意契約といつても根拠のない単純な随意契約ではなく、二十余のメーカーの中から、組合理事者が現に操業している他の地方自治体の施設を多数視察した結果等を参考として民主的手続により六業者を選び、その六業者へ事業内容を説明して工事金額見積書と仕様書を出させて競争原理の長所をも生かし、提出された仕様書の内容を日本環境衛生センターの二見に検査して貰つて、その意見を徴し、施設の性能、公害防止、その他諸般の事情を審査し、最適と思われた仕様と工事金額を見積つたタクマに施工させるのを適当と認めて同社と契約したもので、タクマの見積金額は大手メーカー三社中では最低であり、中堅メーカー三社のいずれよりも多く、六社中最低の太陽よりは一億二一五〇万円多かつたが、ごみ焼却施設のような今後長年月にわたり市民の生活と密接な関係をもち、公害防止等の性能面にも十分な配慮をしなければならない施設の建設工事を請負わせる業者の選定は、その技術、経験、実績、資力等諸般の事情を勘案して選定すべきで、単に請負代金が低ければよいというものでないと考え、この場合は地方自治法施行令第一六七条の二第一項二号にいう「契約の性質又は目的が競争入札に適しないもの」と判断して随意契約によつたものと解されまたその手続も民主的に行れているので、被控訴人の右判断は適法であるというべく、それが違法であるとか不当な公金の支出を認めたもので組合に損害を与えたということはできないし、またその裁量権行使を誤つたものであるとか裁量権の濫用であるということはできないので、これを理由とする控訴人の主張は採用できない。

本件契約を随意契約によつて締結することを決裁した被控訴人の判断が違法不当でないことは、前記乙第二三号証、第二四号証の一、二、形式及び趣旨により公務員が作成したものと認められるので、その各成立を認め得る乙第六ないし第一一号証と弁論の全趣旨を総合して認められる、組合の前記既成の両ごみ処理施設(鳥の木焼却場と旧三秋焼却場)建設請負契約がいずれも随意契約によるものであること及び昭和五一年九月被控訴人がごみ焼却処理施設建設の請負契約方法について他の地方自治体へ照会したところ、松山、丸亀、今治、日田、高松の各市及び菊間町がいずれも随意契約によつている旨回答してきたことによつても裏付けられているとみてよい。

したがつてまた、被控訴人が本件契約を締結したことがその善管注意義務違反すなわち故意又は過失により組合に損害を与えたものであるとはいえないので、これを理由とする控訴人の主張は採用できない。

五  以上によつて明らかなごとく、控訴人の本訴請求は爾余の争点についての判断を俟つまでもなく理由がないので、理由には相違するところがあるが、これと結論を同じくする原判決は相当であるから、本件控訴を失当として棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条本文、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 菊地博 滝口功 川波利明)

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